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切り取られた世界

小説や詩の置場です。

さよなら、ブルーバード(プロローグ)

ヤマケン次回作のプロローグです。
とりあえず書けるだけ書いて、後からまとめて修正をかけるようにしたいと思います。



「さよならブルーバード」


喫茶店の中で、若々しいカップルが会話の糸口をつかめず、ただお互い黙って見つめている、という光景に遭遇してしまうことは、一刻も早く立ち去って別の喫茶店に入り直そうと思い直すほど、実に気まずいものである。
うら若い乙女が長い時間をかけてメイクをして、買ったばかりのワンピをおろして、いつもよりちょっと心持ち露出範囲を広げた服装で臨んだデートで、付き合っているのか付き合っていないのか未だはっきりしない男が、もじもじとしながら何も話しかけてこない場面の当事者となることは、
「付き合うつもりなのかそうじゃないのか、はっきりせぇっちゅうねん!!」
とドヤ顔で怒鳴りつけたくなるのを必死に堪えようとするほど、より気まずいものである。
だが、その男が頭の上に丸々と太った青い鳥を乗っけているのを見ると、気まずさを通り越して気恥ずかしくなってしまうのは、何も街を歩けば誰もが振り返る乙女である私だけではないだろう。
その丸々と太った目つきの悪い青い鳥(面倒なのでブルーバードを略してブルバちゃん(仮)と名づけよう)が、鳥の癖に煙草を燻らせながら、
「すまんねぇ、姉ちゃん。これが今流行の草食系男子ってやつの実態なのさ」
と透かした口調で言われた時は、思わず飛び上がろうになった。周りはそれに気づいた様子がない。これってどこの週間青年ジャ○プに連載しているギャグマンガなんだろう。はっ、いけないいけない。一見して可憐な乙女がイメージを壊すような趣味を見せびらかしては。ギャップに萌える男子もいるのかもしれないけど。

「よう、姉ちゃん。ここは取引といこうじゃないか」
いつの間にか私の肩に飛び乗っていたブルハちゃん(仮)は、ひそひそと私の耳元で囁いた。
思わずびくっとしたが、周りはいっこうに気づく様子が無い。この姿は私にだけしか見えていないのかしら。目の前の草食系男子も気づいていないのかしら。疑問はいくつも振って湧いたが、ブルハちゃん(仮)はそんなこともお構いなしに、くいくいっとお手洗いの場所を指し示した。周りの目を気にしつつ、慌ててお手洗いに駆け込んだ私は、即席の首脳会談を開くことに決定した。
「『あ、そういえば今日は斎州楽友蔵(落語家)の寄席に家族で見に行く約束していたのを忘れていたわ!ごめんあそばせ!』とでも取り繕って、ここは丸く治めてくれないか」
「それって明らかに不自然じゃない・・・」
「『今日はアレなの。ごめんなさい><』とさらっと流して去るのはいかがだろうか」
「なんというか、いろいろ誤解を生みそうな台詞だわね・・・」
ぼそぼそとブルハちゃん(仮)と相談しつつ、お手洗いのドアの隙間からチラッと見ると、
草食系男子は相変わらず固まり続けていた。
「突破口が欲しいわね」
ものの数分ですっかり打ち解けてしまったブルハちゃん(仮)とひそひそ呟きながら、
私はひっそりと何らかの突破口とやらを待ち続けることにしたのだった。

座席に戻ると、草食系男子は汗をだらだらかきながら、相変わらず同じ姿勢で固まり続けていた。まるでとろとろ溶けるアイスみたい、と発想するのはちょっとエロティックかしらと考えながら、私は辛抱強く目の前の草食系男子君の言葉を待ってあげることにした。
8月の終わりの日曜の午後の喫茶店は、奇妙なまでに静まり返っていた。
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2012-11-21 Wed 21:29
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